養父ちち)” の例文
世間の中のさびしさには馴れていたが、家の中の淋しさには絶えかねるらしい。お高は、帰りのおそい養父ちちを、しきりに待ちわびていた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「全くその通りです。実松源次郎氏を殺さずとも、その恩義を忘れただけでも当九郎は大罪人だ……と養父ちちは云っておりました」
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、かたきを持つ身が、師の娘を恋し、養子に入り、養父ちちの名を襲って道場を受け継ぐ——それでもいいものだろうか。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ことし二十一歳の若者で、武勇は養父ちちにも劣らない上に、その威勢を嵩にきて何事も思うがままに振舞っている。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あたしが孤児みなしごだということを御存じでしょうか」といしは続けた、「あたしの父は加賀さまの浪人で、いしは五つの年に孤児になりましたの、十五のとき青木の養父ちちに引取られたのですけれど、 ...
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ぶすぶす言っている哀れな養父ちちの声も途断れ途断れに聞えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
折角のご好意、ありがとうぞんじますが、養父ちちにも弟にも、会わないで立つと心に決めましたから、どうぞ、お引きとり下さいまし
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
解釈を下すという程でもありませんが、僕だけの常識で説明をつけておるので、手ッ取り早く云うと養父ちちと同じ意見なのです。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
敵にむかってはなかなかに鋭い若大将であるが、こういう場合の彼は養父ちちほどに大胆でない。一方に強いわがままな心をもちながら、また一方にはひどく気の弱いところもある。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
姉のつみにも、ふさわしい婿むこでもさがしてやりましょう。酒飲みの養父ちちにも、少しはうまい酒も飲ませて上げられるでしょう。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そうして獣医学校に籍を置いて勉強しているうちに、同じ下宿に居た関係から私の養父ちちの玄洋と懇意になったのだそうで……
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お高の家だけが、歯の抜けたように、祭礼まつり提灯ちょうちんともっていなかった。養父ちちの彦兵衛は、そんな費用も惜しんで、町内の交際つきあいを断っていた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が顔へぶつかってくるような露地ろじだった。案のじょうそこへ入ると、薄ぐらい明りのさす門口かどぐちで、養父ちちの声がしていた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姿は、ひどく変っているが、日あたりのよい草堂の縁に小机を向けて、何やらうつし物の筆をとっている老法師こそ、まぎれもない、養父ちちの範綱なのであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これを、お養父ちち君と、弟の朝麿あさまろとに、十八公麿のかたみじゃと申して、そなたが、負うて帰ってくれぬか」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
養父ちちでもあり、中国総督そうとくでもある彼だが、秀吉は凱旋がいせん将軍をむかえるの礼をもって、わが子を待った。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「寝たが、もし、養父ちちが目をさまして来たら、ふたりともただではすまぬ」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稲葉山いなばやま斎藤義龍さいとうよしたつ養父ちち道三山城守どうさんやましろのかみが、自分を廃嫡はいちゃくして、二男の孫四郎まごしろうか、三男の喜平次きへいじをもり立てようとしているのを察して、仮病けびょうを構えて、そのふたりを呼びよせ、これを殺してしまった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
養父ちちの玄徳にあわせる顔もない気がした。しかし孟達に対しては
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あっ、養父ちちが帰って来た」