飛蝗ばった)” の例文
父と酒を飲んでいるとき、汁椀の中へ蜻蛉とんぼを入れたり、敷いてある寝床の中へ飛蝗ばったを二十も突込んで置いたり、帰り際に刀を隠したりした。
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たけのびた雑草の緑にまじって、萩だの女郎花おみなえしだの桔梗ききょうだのの、秋草の花が咲いている、飛蝗ばった螽蟖きりぎりす馬追うまおいなどが、花や葉を分けて飛びねている。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とびとびにある陸田おかだ狭田せばだもみな猪に踏み荒され、茅葺の山家は壁がぬけて蜻蛉や飛蝗ばったの棲家になり、いくらかは花を植えてあった前庭も葛や葎にとじられて
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とたんに「や! この女は!」という色が文次の表情かおにゆらいだが、たちまち追従ついしょう笑いとともに、文次は米つき飛蝗ばったのように二、三度首を縮めておじぎをした。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いやなにもありません。行き当り飛蝗ばったとともに草枕くさまくら」と最前の浪花節の句をいってから笑いました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ほとほとと飛びあるく飛蝗ばったの足音を聞きながら、これもまた帰るなり出居でい敷莚しきむしろに寝ころがってしまった。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
土壊つちくいで土地が沈み、太い門柱が門扉とびらをつけたままごろんと寝転ねころがっている。小瓦の上には、こけ蒼々あおあお。夏は飛蝗ばった蜻蛉とんぼ棲家すみかになろう、その苔の上に落葉が落ち積んで、どす黒く腐っている。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)