風鐸ふうたく)” の例文
いや、その光がさしてゐるだけに、向うの軒先のきさきに吊した風鐸ふうたくの影も、かへつて濃くなつた宵闇よひやみの中に隠されてゐる位である。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
のき風鐸ふうたくをつるし、丹塗にぬりの唐格子のはまった丸窓があり、舗石の道が丸くッた石門の中へずッと続いている。源内先生は
当麻寺へ行って来たことを話すと、君はあの塔の風鐸ふうたくをどう思います、ときく。わたくしは風鐸にまで注意していなかったので、逆にそのわけを尋ねた。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
のみならず、一切の建物が美しい朱や緑に塗られ、透彫すかしぼりの金具や軒の風鐸ふうたく箜篌くごがきらびやかに相映った
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
風鐸ふうたくのすがたしづかなれば
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
いや、その光がさしてゐるだけに、向うの軒先につるした風鐸ふうたくの影も、かへつて濃くなつた宵闇よひやみの中に隠されてゐる位である。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
源内先生が、宙乗ちゅうのりをしていられる。風鐸ふうたくを修繕するだけのためだから、足場といっても歩板あゆびなどはついていない、杉丸すぎまるを組んだだけの、極くざっとしたもの。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
日が暮れてから急に風が出たと見えて、塔の風鐸ふうたくの鳴る音が、うるさいほど枕にかよって来た。その上、寒さもめっきり加わったので、老年の内供は寝つこうとしても寝つかれない。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
門の風鐸ふうたくを鳴らすほどの風さえ吹く気色けしきはございませんでしたが、それでも今日きょうと云う今日を待ち兼ねていた見物は、奈良の町は申すに及ばず、河内、和泉、摂津、播磨、山城、近江
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)