顏容かほかたち)” の例文
新字:顔容
男のくせに、非凡のこびです。聲は顏容かほかたちに似ぬバリトーンで、少し太く錆びて居りますが、それが又快く異性などに響くのでせう。
吉野は顏容かほかたちちつとも似ては居ないが、その笑ふ時の目尻の皺が、怎うやら、死んだ浩一——靜子の許嫁——を思ひ出させた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
唯〻つるぎに切らん影もなく、弓もて射んまともなき心の敵に向ひて、そもいくその苦戰をなせしやは、父上、此の顏容かほかたちのやつれたるにて御推量下されたし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
美しさに缺けたところもなく、何の缺點も眼に入らない。その若い娘はとゝのつた纖細な顏容かほかたちを持つてゐた。眼は美しい繪に見るやうな大きい、濃い色の、張りのある形と色とだつた。
婦人をんな二人ふたり何時いつちがはぬ、顏容かほかたちとしらず、ちつともかはらず、同一おなじである。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
實は思ひも寄らぬ人に助けられて生きかへり、自分を殺した奴に思ひ知らせ度さに、変り果てた顏容かほかたちを幸ひ、幽靈のやうに、江戸へ舞ひ戻つた人間で御座います
『珍らしや瀧口、此程より病氣いたつきの由にて予が熊野參籠の折より見えざりしが、僅の間に痛く痩せ衰へし其方が顏容かほかたち、日頃鬼とも組まんず勇士も身内の敵には勝たれぬよな、病は癒えしか』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
身扮みなりは木綿物の至つて質素なもの、手足もひどく荒れて居りますが、顏容かほかたちは、清潔で上品で陽けこそして居れ、白粉つ氣の無い健康らしさが好感を持たせます。
銭形平次捕物控:260 女臼 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
顏容かほかたちさへ稍〻やつれて、起居たちゐものうきがごとく見ゆれども、人に向つて氣色きしよくすぐれざるを喞ちし事もなく、偶〻たま/\病などなきやと問ふ人あれば、却つて意外の面地おももちして、常にも増して健かなりと答へけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
水仕事などに忙しくて、顏容かほかたちをつくろふひまもないらしく、いかにも生れた生地きぢのまゝで、それに白粉も紅も知らぬ肌は小麥色を通り越して、赤黒い方に近く、いかにも見すぼらしい娘です。
平次はチラリと見ただけですが、成程さう言へば、滿更の乞食ではないらしく、身扮みなりも自墮落ではあつたにしても、そんなにひどいものではなく、顏容かほかたちも尋常、身體などもたくましく見えたのです。