より)” の例文
死骸の側に身も世もあらぬ姿で泣いているのは、十八九の娘、——これは、殺された主人福島嘉平太ふくしまかへいたの一粒種で、およりという美しいの。
わたしは千葉の者であるが、馬琴ばきんの八犬伝でおなじみの里見の家は、義実よしざね、義なり、義みち実尭さねたか、義とよ、義たか、義ひろ、義より、義やすの九代を伝えて、十代目の忠義ただよしでほろびたのである。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかれども天よりの声はいわく「真理は虚喝手段を以て伝え得べきものにあらず、民の名望によりて彼らを教化せんとす是れ神を試み己を欺くなり、法便は救世術としては価値なきものなり」
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
第五 遍地ニ罨覆あんぷくシテ寒ノ土中ニ侵透スルヲ防拒ス 地中よりテ以テ寒冷ヲ致サズ かえっテ温ヲ得 故ニ草木肥茂シ蟄虫ちっちゅう生ヲ得 又雪上ニそりヲ走ラシ犬鹿ヲ駆使シおもきヲ引キとおきニ致ス 故ニ北陲ほくすいおおきモ害ナク利アリ
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
死骸の側に身も世もあらぬ姿で泣いてゐるのは、十八九の娘、——これは、殺された主人福島嘉平太の一粒種で、およりといふ美しいの。
美しい娘のおよりは、あまりの事に泣いてばかり居る有樣で、跡部あとべ滿十郎が何も彼も一人で引受けて仕事を運ぶ外はありません。
四十男の跡部滿十郎が、およりを自分のところへ引取るために氣違ひ染みた情熱に打ちまかされて、人間の思ひ付く一番タチの惡い罪を犯したのでした。
よりはもう、父の膝に泣き伏して居りました。死ぬ氣などは、とうになくなつてしまつた樣子です。
「毆るよ、馬鹿。——この邊で小菊の懷紙でもザラに使つて居るのは、お茶人の大澤傳右衞門だ。その娘のおよりが、馬鹿に爪外つまはづれが良いと思つて居ると、もう、相手を拵へてやがる」
「わかつたよ。——三軒長屋の浪人者の娘——およりさんとか言ふのだらう」