頸動脈けいどうみゃく)” の例文
叫び続ける一郎の顔は、頸動脈けいどうみゃくを圧迫されて、醜くふくれ上って来た。髪は逆立ち、血走った両眼は開く丈け開いて、今にも飛び出し相に見えた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
Kは小さなナイフで頸動脈けいどうみゃくを切って一息ひといきに死んでしまったのです。ほかきずらしいものは何にもありませんでした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
陽吉は、そうした気分を未だ充分に感じられずに、ひょいと手拭を湯槽にひたした。と、ピリピリといやに強い感覚、頸動脈けいどうみゃくへドキンと大きい衝動がつたわった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とたんに、かれは頸動脈けいどうみゃくやいばをあてて、おのれの身をすすきむらへ、どうと、横ざまに仆したのであった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お政は咽喉笛を避けて切ったために、自分の頸動脈けいどうみゃくを切ってしまったのでした。
私の耳には、すうすうと引くねむいような呼吸が聞え、私の眼には、そのあごの下でピクピクしている頸動脈けいどうみゃくが見えています。私は今や、睫毛まつげの先で刺されるくらい彼女の顔に接近しました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
九艦隊司令長官「北辺ほくへんの護りは、本当いえば最も大切なんだ。あそこはわが国ユー・エス・エー頸動脈けいどうみゃくに一等近いところなんだ。敗戦の将づれに変なことをいって貰いたくないね」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、とどめの拇指おやゆびを、まむしの首のように、ふかく、頸動脈けいどうみゃくへ突っ込もうとした時に、老先生のからだは、がっくりと、泥人形が折れたように、彼の手からすべり抜けた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後ろから喉笛を切った時、下手人の顔を見るつもりで少し顔をらしたらしく、傷は少し左へれておりますが、そのために頸動脈けいどうみゃくを切られて、ひとたまりもなく死んでしまった様子です。
Qのからだはかみそりののようにするどいので、お三根ののどにふれると、さっと頸動脈けいどうみゃくを切ってしまったのだ。思いがけなく、Qは人間の死ぬところを見て興奮した。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
右寄の喉笛のどぶえ、今日の知識でいえば、見事に頸動脈けいどうみゃくをつらぬいた刃物は、やや細くて鋭利で、後ろ首までさきが抜けているのは、恐ろしい力で打ち込んだもので、決して女の自害ではありません。
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
頸動脈けいどうみゃくを切断して、ドンドンその濁った血潮ちしおをかいだしても、かい出しつくせるものではなかった。彼の肉塊にくかいをいちいち引裂いて火の中に投じても、焼き尽せるものではなかった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
頸動脈けいどうみゃくから噴出ふきだした血は、首から襟へ胸へと、ほとんど半身をひたして、碧色みどりいろの艶をさえ帯び、娘の蒼白い顔は、不意を喰ったにしては、少し深刻な恐怖を刻んで、美しさを破壊しない程度ながらも
「わかりました。頸動脈けいどうみゃくをするどい刃物はもので斬られて、出血多量で死んだと思います」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お三根は、左の頸動脈けいどうみゃくを切られたのが致命傷ちめいしょうであることがわかった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何者かが頸動脈けいどうみゃくを切り裂いたのに違いなかった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)