霜解しもど)” の例文
霜解しもどけの千束村のあぜを、梅の枝を持って通る人や、のろのろと歩む空駕からかごの人影がいかにも春先の点景らしく、うららかに動いて見えます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羽根はねは、くるまうえからさびしい霜枯しもがれの野原のはらました。田圃たんぼあいだとおみち霜解しもどけがして、ぬかるみになっていました。
東京の羽根 (新字新仮名) / 小川未明(著)
古風にやる家も、手軽でやらぬ家もあるが、要するに年々昔は遠くなって行く。名物は秩父ちちぶおろし乾風からっかぜ霜解しもどけだ。武蔵野は、雪は少ない。一尺の上も積るはまれで、五日と消えぬは珍らしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
父親は今朝猫の額のような畠のかどで、霜解しもどけの土をザクザク踏みながら、白い手を泥だらけにして、しきりに何かしていたが、やがてようやく芽を出し始めた福寿草ふくじゅそうを鉢に植えて床の間に飾った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
霜解しもどけのしたみちは、ぬかるみのところもあるが、もうひかりかわいて、陽炎かげろうのぼっているところもありました。むらはずれに土手どてがあって、おおきなっていました。
薬売りの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
連日の好晴こうせいに、霜解しもどけのみちもおおかた乾いて、街道にはところどころ白いほこりも見えた。かすみにつつまれて、いただきの雪がおぼろげに見える両毛りょうもうの山々を後ろにして、二人は話しながらゆるやかに歩いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)