離々りり)” の例文
おそれ多いご比較ではあるが、吉野の御陵ごりょうには、雑草が離々りりいて、ここの何分の一の御築石みきずきもない——けがれもくそもあるものか、俺は、斬る
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春草が離々りりえて、墓標に植えた木がもう一抱えになっていた。女はそれを見て吐息した。燕児の李は桑に言った。
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
河原一面に離々りりとした草叢くさむら。月のあるべき空が曇っていて、地上はボーッとして水蒸気が立てこめているから、さながら朧夜おぼろよの中を歩んで行く気持です。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
骨ばかりの冠木門と朽ちはてた母屋おもやの住居は、落葉や秋草の離々りりたる岡に、今もって帰らぬ主人あるじに待ちぼけをくッています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見渡すところ、この荒原の中、離々りりたる草を分けて歩み行くたった一人の人、うような遅い足どりで——
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
くず、山萩、女郎花おみなえし、雑草にまじる青白い蕎麦そばの花、盛りあがった土のまわりに、離々りりと露をたたえている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蘆葦茅草ろいぼうそう離々りりとした石野原——行手でバサバサと音がする。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雑草の離々りりとしている河原地を、水際離れて、およそ双方の間、約五間ほどの距離をとって立ち別れた。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ために陸へとりのこされた残軍はまた残軍で、陸路を西へ、離々りり続々、落ちのびて行くのも見えた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縁の下からくわを取りだして、それを杖のように突きながら、離々りりとした秋草の中を歩きだした。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
玄関前の敷石にたたずみ、ふと、庭木戸ごしに、この夏は、草もらなかったらしい広庭の離々りりたる茂りをながめていたのを、ふと、眼ばやい子供たちが、彼方あなたから見つけて
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからいまや海に陸に逃散ちょうさんする離々りりたる敵影を見た公卿たちは、この習例をよい口実に
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒い板塀いたべいまわりを巡ってみると、十年もあるじがいなかった甲賀宗家そうけ。この附近の墨屋敷の中では、最も宏壮な構えだが、広いだけに荒れ方も甚だしく、雑草離々りりとして古社ふるやしろででもあるようなすがただ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)