やとい)” の例文
郵便局のやといや、税務署の受附などに、時おり権突けんつくを食わせられる度に、ますますいやになった。それから軍人も嫌であった。
枯菊の影 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
通信事務員になったり裁判所のやといになったりして勉強はしていたが、読むだけで書くことが出来なかったので、作家になることを断念しようと思った。
投じてその当時東京帝国医科大学のやとい教師たりし Dr. William Anderson をして日本及支那の絵画凡そ二千余種を購はしめたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今の学者が今より勉強して幾年を過ぎなば、このやといの外国人をやめてこれに交代すべきや。新聞紙の政談に志すも、この交代の日は容易に来ることなかるべし。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何の、蔭でいうくらいなら優しいけれど、髯がね、あの学校のやといになって、はじめて教場へ出た時に、誰だっけか、(先生、先生の御姓名は?)と聞いたんだって。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小杉卓二が大の男の癖に悲鳴を挙げると、お勝手に働いていたやとい婆さんのおくらが飛んで来ました。
どいがえじゃございませんか。それからこいつが轆轤座ろくろざ切梁きりはり、ええと、こいつが甲板のしん、こいつがやといでこいつが床梁とこ、それからこいつが笠木かさぎ、結び、以上は横材でございます」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
高足こうそくの一人小此木辰太郎おこのぎたつたろうは、明治九年に工務省やといになり、十八年内閣属に転じ、十九年十二月一日から二十七年三月二十九日まで職を学習院に奉じて、生徒に筆札を授けていたが
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
えらいな! その清浄しょうじょうはだえをもって、紋綸子もんりんずの、長襦袢ながじゅばんで、高髷たかまげという、その艶麗あでやかな姿をもって、行燈あんどうにかえに来たやといの女に目まじろがない、その任侠にんきょうな気をもって
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
保は静岡安西あんざい一丁目南裏町みなみうらまち十五番地に移り住んだ。私立静岡英学校の教頭になったからである。校主は藤波甚助ふじなみじんすけという人で、やとい外国人にはカッシデエ夫妻、カッキング夫人等がいた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)