雄叫おたけ)” の例文
雄叫おたけびながらひたひたと間をちぢめて、両翼八双に陣形を立て直しつつ、爪先き迫りに迫って来ると、左右一度が同時に襲いかかりました。
と玄蕃の雄叫おたけび。——刹那、ぱッと左右に別れた二人のはやさは、大地を引ッ裂いて跳りでた双龍が、珠を争うかの如くにしか見えなかった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馳駆ちくする騎馬、討合う軍兵、敵も味方も入乱れて、雄叫おたけびとときの声と、さながら荒れ狂う怒濤どとうのような白兵戦になった。
蒲生鶴千代 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
がくがくと首を上下に振り、膝をたたき、密林の猛獣のような雄叫おたけびをあげて、ぐるぐると部屋を廻りだした。そして、次つぎと服を脱ぎはじめた。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
若い土蕃どばんが女を生捕りに出陣するときのあの雄叫おたけびを、声だけ抜いてもらした表情ではないか。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
厳重に大高城を監視して居た、丸根、鷲津の番兵達は、はるかに雄叫おたけびの声がすると思っているうちに、寺部、梅ヶ坪の城にやみをつらぬいて火が挙がるのを見て、驚き且ついぶかった。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
雄叫おたけびのもようからおすと、今日の戦争は、相当、長びくことになるらしい。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二つの響はあたかも余等のむねの響に通うた、砲声の雄叫おたけび、鐘声の悲泣ひきゅう
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ひとたび、山を追われて、今の修羅しゅらの世に出て、あの雄叫おたけびを聞いたなら、おそらく、彼は、源義朝よしとも嫡男ちゃくなんたちと共に、業火ごうかの下に、鉄弓てっきゅうもしごく男となろう
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるではるかな過去からの声のように、遠くて静かな調子だった……図書の感覚には、崩壊する築地塀の地響きや、決戦の雄叫おたけびや、物具の撃合う鋭い音や、悲鳴や叫喚が生々と残っている。
三十二刻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
冬の道場こそは、木剣を持つ手から、血も吹きこぼれ、五体からは焔も立つ、真に剣道へ精進する侍ばかりが、厳冬氷のような研磨の床に雄叫おたけぶさまは壮絶の極みである。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき、正成は立ちどまって、千早谷の下で雄叫おたけびする谷こだまをふとのぞきこんだ。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銃音つつおと雄叫おたけびに、明けては暮れ、暮れては明け、ここ三年のあいだというもの、まったく家なく身なく骨肉なく——ただこの一城を中心に、飢えてもきずついても、屈せず退かず
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)