グラス)” の例文
得忘れぬ面影にたりとはおろかや、得忘れぬその面影なりと、ゆくりなくも認めたる貴婦人のグラス持てる手は兢々わなわな打顫うちふるひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
やがて双眼鏡は貴婦人の手に在りて、くを忘らるるまでにでられけるが、目の及ばぬ遠き限は南に北に眺尽ながめつくされて、彼はこのグラスただならず精巧なるに驚けるさまなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼の階子はしごを下り行くとひとしく貴婦人は再びグラスを取りて、葉越はごしの面影を望みしが、一目見るより漸含さしぐむ涙に曇らされて、たちま文色あいろも分かずなりぬ。彼は静無しどなく椅子に崩折くづをれて、ほしいままに泣乱したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)