ひま)” の例文
ッと一同が首をすくめるひまもあらばこそ、機関銃がパッと空中にねあがり、天井てんじょうに穴をあけると、どこかに見えなくなりました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いや、そんなことは、伊織に考えているひまはない。彼はただ、ぎょっとして、ばばが自分をどうする気かと恐れていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春雨に濡れた着物は、更に娘の血潮に汚れますが、與三郎はもうそんな事など、考へてゐるひまも無かつたやうです。
博士はかせ片手かたて眼鏡めがねつて、片手かたて帽子ばうしにかけたまゝはげしく、きふに、ほとんどかぞへるひまがないほどくつのうらで虚空こくうむだ、はしががた/\とうごいてつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうどその時女房が病気になった。七郎は看病をしなくてはならないので仕事にいくひまがなかった。十日あまりして女房の体が急に変って死んでしまった。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「オイ給仕、この騒ぎのなかで、新聞なんか読んでいちゃいけないじゃないか。そんなひまがあったら、壊れた壁を一つでも取りのけるがいい」
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「戸塚から問屋場の駕籠に乘つて品川まで通し、品川から駕籠を換へて、佐久間町の相模屋まで乘りつけたんですもの、口を利くひまなんかありやしません」
鉢前の雨戸は不意に啓きて、人はおもてあらわせり。白糸あなやと飛び退すさひまもなく
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしこれは発見されたというばかりで、発見者が火中から取出そうとして長い木片を探しに行ったひまに、どこかへ行って見えなくなってしまった。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
皆んな居流れて屠蘇とそを祝ひ、下女のお民はお勝手と座敷の間を、道具を運んだり、屠蘇を運んだり、雜煮の支度をしたり、一寸のひまもなく驅けて歩いて居た筈だ
これは多分、六本持つて來た矢のうち、二本は放つひまがなく、弓とともに橋架はしげたの下に隱したものでせう。
と、考えているひまに、そのサイレンはどんどんこっちへ近づいて来た。紛れもなく出火らしい。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そんなことを云うひまがあったら、なぜ貴方がたはもっと大局に目をそそがないのです。貴方がたの不注意で、いま国家のために懸けがえのない人造人間研究家が殺害されたのです。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)