遅蒔おそまき)” の例文
旧字:遲蒔
「もっと早く、花の咲いた時分、これが出来上がっていたら、それこそ一月で元手ぐらいは取れたんだが、少し考えが遅蒔おそまきだった。惜しいことをした」
当人の許諾を得た事実だけを田口に報告した方が、今更遅蒔おそまきのようでも、まだ気がいていやしないかと考えて、自分で自分を彼に紹介する便法べんぽうを工夫し始めた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はあれほど自分の思ひ通りに仕立てようとしたにかゝはらず、思ひもよらぬ息子として現れた練吉に対し、今遅蒔おそまきながらその心底に立つて理解してやらうと試みてゐた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
私たち日本婦人は遅蒔おそまきながら今こそ一斉に目をさまして自分自身を反省せねばならない時です。
婦人改造と高等教育 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
遅蒔おそまきに、それを知った私は、いくらかの躊躇ちゅうちょは感じたが、そしてその口実にあれこれとさんざ迷ったのだが、遂に好奇心の力に打まかされて訪問を決心したのは、それから又
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
今更遅蒔おそまきではあるが、小生としておびしなければならないのは、昨年以来、いや、実はそのずっと前から、雪子ちゃんを本家へ返すようにと云う度々のお言葉があったにもかかわらず
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おッと、お姫様、手を折りますぜ、今になって逃げようたッて、遅蒔おそまきだ」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方神田淡路町に琅玕洞ろうかんどうという小さな美術店を創設して新興芸術の展覧会などをやったり、当時日本に勃興したスバル一派の新文学運動に加わったりしていたと同時に、遅蒔おそまきの青春が爆発して
智恵子の半生 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
一方神田淡路町に琅玕洞ろうかんどうといふ小さな美術店を創設して新興芸術の展覧会などをやつたり、当時日本に勃興ぼつこうしたスバル一派の新文学運動に加はつたりしてゐたと同時に、遅蒔おそまきの青春が爆発して
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
遅蒔おそまきながらその方で自活の道を立てようと云う意図があった訳なので、それもこの時局でさえなかったらうまく行きそうだったのであるが、不幸にして目下のところ一頓挫とんざを来たしているのである。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「——といっても、今となっちゃあ遅蒔おそまきでしょう」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丑蔵の密告は、遅蒔おそまきだった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)