通魔とおりま)” の例文
おどそうなんて、飛んでもない。大方通魔とおりまに魅入られて、ふいと気が違ったのかも知れないよ、照子さんには済まないけれども、ああ可哀そう。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
隣家の主人は通魔とおりまを見て発狂したのであった。
通魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ただ、万綱はじめ、手下の誰彼たれかれ幾十人、一人として影を見せず、あとは通魔とおりまなりを鎮めて、日金颪のぎたるよう。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おお、この森を峠にして、こんな晩、中空を越す通魔とおりまが、魔王に、はたと捧ぐる、関所の通証券とおりてがたであろうも知れぬ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……落着いてちゃあいなすったが、先生少々どうかなさりやしねえのかと思ったのは、こう変に山が寂しくなって、通魔とおりまでもしそうな、静寂しじまの鐘の唄の塩梅あんばい
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朧夜おぼろよにはそこぞと思う小路々々を徜徉さまよい徜徉い日を重ねて、青葉に移るのが、酔のさめ際のように心寂しくってならなかった——人は二度とも、美しい通魔とおりまを見たんだ
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雲の中を伝うように大空に高く響いて、この町を二三度、四五たび、風に吹廻されて往来ゆききした事がある……通魔とおりまがすると恐れて、老若、呼吸いきをひそめたが、あとで聞くと、その晩
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
魔とも、妖怪変化とも、もしこれが通魔とおりまなら、あの火をしめす宮奴が気絶をしないでこらえるものか。で、般若は一ちょうおのを提げ、天狗は注連しめ結いたる半弓に矢を取添え、狐は腰に一口ひとふりの太刀をく。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軒のあたり通魔とおりまがしたのであろう。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)