退)” の例文
その隙である、例の給仕ボーイは影のように身を退らすとまるでつるを放れた矢のようないきおいで地下室の方へ逃げだした。と見た博士が
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お八重は背後うしろへ体を退らせたが、しかしその瞬間去年の秋の、観楓の酒宴での出来事を、幻のように思い出した。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ドクトルは一寸ためらったが、肱掛椅子を退らかして、火の燃えさかっている暖炉の棚へりかかりながら
誤診 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
頭がぶんと鳴って、私は足をさらわれたようにふらふらとうしろ退さりした。そして酒場の硝子窓に凭れた。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
と伯爵の眼がキラリと嬢の上に光った、と見た途端、さっきからソロリソロリと身体を退らしていた右手が、柱の呼鈴に触れた。嬢の飛び退いたのと同時であった。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
浅草のも芝のもそれ/″\損じのあつたに一寸一分歪みもせず退りもせぬとは能う造つた事の。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
浅草のも芝のもそれぞれ損じのあったに一寸一分ゆがみもせず退りもせぬとはよう造ったことの。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一つ拾って来てくれ。車が退らからねえように止め石に使うんだ。そしてはすかけに登らせよう
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
すくなくとも、その不安な顔いろは、かれが何者でもないものであることを知悉ちしつしながら、なおこの空中にある自らの優しいからだを護るためにしだいにうしろ退さりして行った。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)