だすき)” の例文
前垂まへだれの赤だすき、それを片はづしに、貫入くわんにふの入つたやうな厚化粧、此處を先途と、地獄の三丁目まで屆きさうな嬌聲を發するのです。
ことに「にごり江」のおりき、「やみ夜」のおらん、「闇桜やみざくら」の千代子、「たまだすき」の糸子、「別れ霜」のおたか、「うつせみ」の雪子、「十三夜」のおせき
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
次の間から、ツツと近侍の者が捧げて来た男女二組の白服、白だすき、見事な差刀さしりょうが添えてそれへ置かれた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
早苗さなえとる頃」で想い出すのは子供の頃に見た郷里の氏神の神田の田植の光景である。このときの晴れの早乙女さおとめには村中の娘達が揃いの紺の着物に赤帯、赤だすきで出る。
五月の唯物観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ちらと垣根のむこうに動く捕吏とりての白だすきを見つけたので、そのまま、塀からそとの往来に突き出ているけやきの大木に猿のごとくスルスルとよじのぼって下をうかがうと……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一、侍は縄しめだすき、足軽は常の縄襷つかまつるべく候事。
厳島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いつになったら元服するのか、もう二十三、四歳にもなろうというのに、相変らず前髪を捨てず、片肌ぬぐと、眼を奪うような桃山刺繍ぬい襦袢じゅばんを着、掛けだすきにも、紫革を用いて
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは十四五の、少しがらの小さい、可愛らしい少年でした。遠州じまの袷、前垂を卷いて、甲斐甲斐しい片だすき、色の白さも、眼鼻立ちの聰明さも、何んとなく離屋の老女お市に似てをります。
だすきのまま、富森助右衛門は、馬にとび乗った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)