がさ)” の例文
今度は以前のように下絵などの面倒なこともありませんので、師匠の差図さしずと自分の考案で、童女の方は十か十一位、桃割ももわれに結って三枚がさね。
妙子が着ている衣裳と云うのは、実は本家の姉の鶴子が昔婚礼の時に用いた三枚がさねの一番下の一と襲ねなのである。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十二単衣ひとへに於ける色がさねの美を見るやうに、一枚の切抜きを又一枚の別のいろ紙の上にりつけ、その色の調和や対照に妙味尽きないものが出来るやうになつた。
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
お島が、これも当夜の世話をしに昼から来ていた髪結に、黒の三枚がさねを着せてもらった頃には、王子の父親も古めかしい羽織袴をつけ、扇子などを帯にはさんで、もうやって来ていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
羽二重はぶたえの千羽鶴、裾模様の振袖三枚がさねの、まだシツケの掛かっているのを逆さに着せて、金銀の地紙を織出した糸錦の、これも仕立卸したておろしと見える丸帯でグルグルグルと棒巻にしたまま
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
火近うともしたり、「母屋もやの中柱にそばめる人や我が心懸くる」と、まづ目とめ給へば、こきあやのひとへがさねなめり、なにかあらん上に着て、かしらつき細やかに、小さき人の物げ無き姿ぞしたる……
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと云ふのが、私は紋附きの羽織がなかつたものだから、その晩の衣裳として偕楽園から頗る上等の羽織袴縞御召の二枚がさね等一切を借用してゐた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうして愈々いよいよ強直してしまった、なまめかしい姿の白坊主をヤットコサと抱き上げて、寝棺の中にソッと落し込んで、三枚がさねの振袖と裲襠うちかけを逆さに着せて、糸錦いとにしきの帯で巻立ててやりますと
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
十畳と八畳の結構な二間に、備後表びんごおもてが青々して、一間半の畳床には蝦夷菊えぞぎくを盛上げた青磁の壺が据えてある。その向うに文晁ぶんちょうの滝の大幅。黒ずんだ狩野派の銀屏風ぎんびょうぶの前には二枚がさねの座布団。脇息。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)