藁火わらび)” の例文
気がついた時には、乃公おれ藁火わらびの傍に大勢に取巻かれていた。大方乃公が死んだと思って火葬にする積りだったのだろう。気の早い奴等だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうでなければ蕎麦粉そばこなどとともに練って、手毬てまりほどの大さに丸め、藁火わらびや炉の中に転がして焼いて一朝の飯の代りにした。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「おい、早く火を焚きな、火を。そんな……丸太ん棒を持って来たってどうなるもんか、藁火わらびだ、藁を持って来いやい」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼らの友情は藁火わらびにすぎなかった。それでも結構だ。闇夜やみよの中ではその一時の光もありがたい。君の言うことは道理だ。忘恩者ではありたくないものだ。
鮎の若竹蒸し、というのは、今年竹のひと節を割り、その中へ鮎をまるのまま入れ、あけびづるで巻いたのを、外から藁火わらびで蒸し焼きにする、のだそうである。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
夕暮方に、この浜には盛んな藁火わらびの煙があがりました。それは為吉の死骸しがいをあたためるためでした。為吉の父も母も、その死骸に取りすがって泣いていました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
藁火わらび藁火、藁火をお焚き! 目付けておいでよ猪十郎さん。……オッとよしよし、海草でよろしい。……ソーレ燃え付いた燃え付いた! ……ご婦人方から手を付けたり! うむ!
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妻は台所の土間どま藁火わらびいて、裸体らたい死児しじをあたためようとしている。入口には二、三人近所の人もいたようなれどだれだかわからぬ。民子、秋子、雪子らの泣き声は耳にはいった。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
八十吉のおぼれる有様、それから八十吉を水から揚げてから、藁火わらびをどんどんいて、身の皮のあぶれる程八十吉を温めたこと、八十吉の肛門かうもんから煙管きせるを入れて煙草たばこのけむりを骨折つて吹き込んだこと
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
反乱は多く噴火山であり、暴動は多く藁火わらびである。
この朝早く子供たちは、米の粉を持って来て地蔵のお顔に塗り、その夕方にはまた藁火わらびいて、真黒にいぶしました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この宿しゅくにはござらねえ、山竹老へ持ち込んだら、おぞけをふるって、もしやお見立て違いをしては首があぶねえといって、逃げてしまった、藁火わらびをたけとおっしゃるが
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
藁火わらびいて、溺死人をあぶって騒いでいるのを押しわけて、その被害者を一応診察して、助かるべきものか、助かるべからざるものかを検断して、これは助かるという見込みをつけました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここで一番焚火でもして身を温めてやらぬことにはふるえ上ってものの用には立つまい——と内々藁火わらびの用意まで心がけて待構えていると、岸へ上った右の裸男は、そこで頭上の衣類を取卸すと共に
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)