薄痘痕うすいも)” の例文
二人はやっとつかみ合いをやめた。彼等の前には薄痘痕うすいものある百姓の女房が立っていた。それはやはり惣吉そうきちと云う学校友だちの母親だった。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鼻のあたり薄痘痕うすいもありて、口を引窄ひきすぼむる癖あり。歯性悪ければとて常にくろめたるが、かかるをや烏羽玉ぬばたまともふべくほとん耀かがやくばかりにうるはし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お熊は四十格向がッこうで、薄痘痕うすいもがあッて、小鬢こびん禿はげがあッて、右の眼がゆがんで、口がとんがらかッて、どう見ても新造面しんぞうづら——意地悪別製の新造面である。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
薄痘痕うすいものあるあおい顔をしかめながら即効紙のってある左右の顳顬こめかみを、縫い物捨てて両手でおさえる女の、齢は二十五六、眼鼻立ちも醜からねど美味うまきもの食わぬに膩気あぶらけ少く肌理きめ荒れたるさまあわれにて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
田宮はあかるいランプの光に、薄痘痕うすいものある顔を火照ほてらせながら、向い合った牧野へさかずきをさした。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
薄痘痕うすいものある蒼い顔をしかめながら即効紙の貼つてある左右の顳顬こめかみを、縫ひ物捨てゝ両手で圧へる女の、齢は二十五六、眼鼻立ちも醜からねど美味うまきもの食はぬに膩気あぶらけ少く肌理きめ荒れたる態あはれにて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
田宮は薄痘痕うすいものある顔に、くすぐったそうな笑いを浮べながら、すりいもはしからんでいた。……
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
田宮は薄痘痕うすいものある顔に、一ぱいの笑いを浮べたなり、委細いさいかまわずしゃべり続けた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)