蕃椒とうがらし)” の例文
縮緬ちりめん小片こぎれで叔母が好奇ものずきに拵えた、蕃椒とうがらしほどの大きさの比翼の枕などがあった。それを見ても叔母の手頭てさきの器用なことが解った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
隣の越後でもまたショウビンはキョロロまたナンバン鳥とも称し(『新潟県天産誌』)、そのナンバンは蕃椒とうがらしのことである。
「寒くなった。……出ようじゃないか。——ああ西日が当ると思ったら、向うの蕃椒とうがらしか。慌てている。が雨はあがった。」
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめは叔母も自分ながらけぶそうなかおをして、やわやわ吹付けていたからまずよかッたが、次第にいぶし方に念が入ッて来て、果は生松葉なままつば蕃椒とうがらしをくべるように成ッたから、そのけぶいことこの上なし。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それを食べて今一度、咳の出る苦しさを思い出して下さいというつもりであったと見えて、近頃では焼き蕃椒とうがらしを供える人さえあるという話でありました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ふと、軒に乾した煙草の葉と、蕃椒とうがらしの間に、山駕籠やまかごすすけたのが一挺かかった藁家を見て、朽縁くちえんどうと掛けた。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
豆腐も駄菓子もつッくるみに売っている、天井につるした蕃椒とうがらしの方が、よりは真赤まっかに目に立つてッた、しなびた店で、ほだ同然のにしんに、山家片鄙へんぴはおきまりの石斑魚いわな煮浸にびたし
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
名を由之助よしのすけという小山判事は、ほこりも立たない秋の空は水のように澄渡って、あちらこちら蕎麦の茎の西日の色、真赤まっか蕃椒とうがらしが一団々々ある中へ、口にしたその葉巻の紫の煙を軽く吹き乱しながら
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天井裏の蕃椒とうがらし真赤まっかだが、薄暗い納戸から、いぼ尻まきの顔を出して
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
笑いの虫は蕃椒とうがらしを食ったように、赤くなるまでかっ競勢きおって
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「大丈夫。いくら好きだって、蕃椒とうがらしでは飲めないよ。」
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)