草稿そうこう)” の例文
なおもって彼の草稿そうこう極秘ごくひに致し置、今日に至るまで二、三親友の外へは誰れにも見せ不申候もうさずそうろう是亦これまた乍序ついでながら申上候もうしあげそうろう。以上。
するとかれは、ちょっとかたをすくめ、右手をあげて耳のうしろをかいた。それからにやりと笑って胸のかくしから草稿そうこうを引きだし、大いそぎでそれをめくった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ゆがんだ机の上には、訳しかけのプウシュキンの射的の草稿そうこうが黄いろくなったままだが、もうこんなものも売りに歩く自信もなくなりかけた。僕はふと誰かの話を憶い出した。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
竹渓は晩年下谷御徒町おかちまちに住した。その子枕山はなか御徒町に詩社を開き、鷲津毅堂もまたその近隣きんりんを下して生徒を教えた。わたくしがこの草稿そうこうを下谷叢話と名づけた所以ゆえんである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
未完成の草稿そうこうを焼き捨てるとか、湖中へ沈めるとかいう考えも浮ばないではなかったが、それほど華やかな芝居気しばいぎさえなくなっていて、ただ反古ほごより、多少惜しいぐらいの気持ちで
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
昨日きのう電車の中で草稿そうこうを失って——」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
拝啓はいけい仕候つかまつりそうろうのぶれば過日瘠我慢之説やせがまんのせつと題したる草稿そうこう一冊をていし候。あるいは御一読も被成下なしくだされ候哉そうろうや