自重じちょう)” の例文
「それがしも満足。御辺もこれで、まずは深淵を出て、風雲の端に会したというもの。臥龍がりょう、いよいよご自重じちょうあれや」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、自重じちょうした。二月一杯は殆ど、外出しなかった。友人はもとより、妻までが、自分の臆病を笑った。自分も少し神経衰弱の恐病症ヒポコンデリアに罹って居ると思った。
マスク (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかし、理屈りくつではわかっていても、実際問題となると、またべつだからね。せいぜい自重じちょうしてくれたまえ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
仮りに一年としてもこれを金銭に換算したら君に提供した旅費の何倍かに当たる。少額を受取れば独立を害し、多額を受ければ独立自重じちょうの心を害さぬ理由は解しがたい
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「成功をいのる。みんなの運命が、君たちの行動にかかっているんだから、自重じちょうしてくれたまえ」
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大いに自重じちょうする。仲人の持って来るクジは引かない。一々断っている。自分で探して、ロマンスで結婚する。一度しかない青春だ。釣堀の鯉や鮒は釣らない。大海の鯛を釣る。
ロマンスと縁談 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また、そうとしかほかに理由が考えられないのだ。自重じちょうしてくれ給えよ……しかし、宇津木、それはどうあろうとも、正直のところは、拙者は君を敵に持つことを怖れているのだ。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
余は旧劇と称する江戸演劇のために永く過去の伝統を負へる俳優に向つてよろしく観世かんぜ金春こんぱる諸流の能役者の如き厳然たる態度を取り、以て深く自守自重じちょうせん事を切望して止まざるものなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
又一方の道徳論においては、人生を万物中の至尊至霊のものなりと認め、自尊自重じちょういやしくも卑劣な事は出来ない、不品行な事は出来ない、不仁不義、不忠不孝ソンな浅ましい事はたれに頼まれても
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ドノバン! きみにはご両親がある、祖国がある、自重じちょうしてくれたまえ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
「仰せまでもありません。が、この王允は、董太師を徳とし、董太師の徳は生涯忘れまいと、常に誓っておる者です。将軍もどうか、いよいよ太師のため、自重じちょうして下さい」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みずからかえりみてなおからば千万人といえども、吾れかんとの独立自重じちょうの心は誰人たれびとにもなくてはならぬけれども、いわばどちらでも好いことに角立かどだてて世俗に反抗するほどの要なきものが多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「今までとは違うんだからおおい自重じちょうする必要がある」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
考えて自重じちょうしてもらわないと困る
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「すぐそんな気になってはこまる。こんどの御岳はただの武者修行むしゃしゅぎょうやなにかとちがう。豊臣家とよとみけのおんをいただいてまいったことだから、もうすこし自重じちょうしてくれよ。え、大九郎」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊那丸君いなまるぎみにもよく言伝ことづてをしてくれよ。よいか、ますます自重じちょうあそばすようにと」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事ここに到るまでにも、家康と秀吉とは、いつかは、今日あることを知っていたし、今日になっては、なおさら容易に、けれん小手技こてわざで、伏しうる敵でないことを、相互に知っての自重じちょうだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)