耿々こうこう)” の例文
緑酒と脂粉の席の間からも、其の道が、常に耿々こうこうと、ヤコブの砂漠で夢見た光の梯子はしごの様に高く星空迄届いているのを、彼は見た。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
父の耿々こうこうの気が——三十年火のように燃えた野心が、こうした金の苦労のために、砕かれそうに見えるのが、一番瑠璃子には悲しかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たまたま我が耿々こうこうの志少なきを語るものにすぎずといえども、あるいは少しく兄の憐みをくものなきにしもあらじ。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかれども成すべき手段なし、則ちなしといえども、彼が成さんと欲する心は、耿々こうこうとして須臾しゅゆまず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
七番の座敷では十二時過ぎてもまだランプが耿々こうこうと輝いている。亀屋で起きている者といえばこの座敷の真ん中で、差し向かいで話している二人の客ばかりである。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ただ、今日これへ自分から駈けつけて、彼の陣門に駒をつないだものは、故主の敵光秀を討たんという一片いっぺん耿々こうこうの志を一つにする者と思うたからにほかならない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
空には月明らかに雲薄く、あまつさえ白帝城のいらか白堊はくあとを耿々こうこうと照らし出したのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
一片耿々こうこうの志をもって天下のめに大事を行い、その結果捕われて幽囚されたのじゃから、俯仰天地に恥ずる所は無く、従って捕われて自由を奪われた事は無念であるに相違無い。
抽斎の王室における、常に耿々こうこうの心をいだいていた。そしてかつて一たびこれがために身命をあやうくしたことがある。保さんはこれを母五百に聞いたが、うらむらくはその月日を詳にしない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
耿々こうこうたるもの わが胸に存す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それ以上降ったら万戸ばんこ洪水にひたされそうに見えたが、やがて祭壇の上から誰やらの大喝が一声空をつんざいたかと思うと、雨ははたとやみ、ふたたび耿々こうこうたる日輪が大空にすがたを見せた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
途すがら、耿々こうこうの星を仰ぐたびに、彼はひとり呟いた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)