老夫おやじ)” の例文
「どれ。」といいて立ったる折、のしのしと道芝を踏む音して、つづれをまとうたる老夫おやじの、顔の色いと赤きが縁近う入り来つ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此の早雲という老夫おやじも中々食えない奴で、三略の第一章をチョピリ聴聞すると、もうよい、などと云ったという大きなところを見せて居るかと思うと
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「どれ。」といひて立つたる折、のしのしと道芝みちしばを踏む音して、つづれをまとうたる老夫おやじの、顔の色いと赤きがえんちこはいり来つ。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふすまをともにせざるのみならず、一たびも来りてその妻を見しことあらざる、孤屋ひとつやに幽閉の番人として、この老夫おやじをばえらびたれ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はい、もうお蔭様で老夫おやじめ助かりまする。こうして眼も見えませんくせに、大胆な、単独ひとりで船なんぞに乗りまして、他様はたさまに御迷惑を掛けまする。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうも、はや御面倒でございますが、小用場こようばをお教えなすって下さいまし。はいまことに不自由な老夫おやじでございます。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのことばわらざるに、車は凸凹路でこぼこみちを踏みて、がたくりんとつまずきぬ。老夫おやじは横様に薙仆なぎたおされて、半ば禿げたる法然頭ほうねんあたまはどっさりと美人の膝にまくらせり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と遠慮がちに訴うるは、美人の膝枕せし老夫おやじなり。馬は群がるはえあぶとの中に優々と水飲み、奴は木蔭こかげ床几しょうぎに大の字なりにたおれて、むしゃむしゃと菓子をらえり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たといいかなる手段にても到底この老夫おやじをして我に忠ならしむることのあたわざるをお通は断じつ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老夫おやじ! 何をする?)運八がね、鉄鎚かなづちの手の揚る処を、……ぎょっとする間もなかったものだから、いきなりドンと近常さんの肩を突いて、何をする、と怒鳴りました。
済まねえだから、死なねえだ、死なねえうちは邪魔アするだ。この邪魔物を殺さっしゃい、七十になる老夫おやじだ。殺しおしくもねえでないか。さあ、やらっしゃい。ええ! らちのあかぬ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われというものは、老夫おやじ、大それた、これ、ものも積って程に見ろ。