縄張なわばり)” の例文
旧字:繩張
彼は、これより内へ入るべからずという縄張なわばりのところまで出て、すっかり見ちがえるような監獄跡にたたずんで、しばし動こうともしなかった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一つは自分の縄張なわばりうちへ這入はいって来て、似寄った武器と、同種の兵法剣術で競争をやる。元来競争となるとたいていの場合は同種同類に限るようです。
文壇の趨勢 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大小の顔役が、それぞれ縄張なわばりを持ち、乾分こぶんを養い、旅烏の客をつかまえて、好餌こうじとしているが、その中で、管営かんえいの若殿金眼彪きんがんひょう施恩しおんも、一ト縄張の株を持っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しか如何いかに飛込んで来た仲間以外の者であろうと、朝鮮人であろうと此商売は早い方が勝にきまって居る。近頃では縄張なわばり内だの自分がけて来たのと云ったって問題にならなくなって居る。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
心持こころもち、墓地の縄張なわばりの中ででもあるような、たいらな丘の上へ出ると、月は曇ってしまったか、それとも海へ落ちたかという、一方は今来たみちで向うはがけ、谷か、それとも浜辺かは、判然せぬが
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「本当に渡したよ。私は金が欲しいわけでこの仕事をやったんじゃない。目的は銀座の縄張なわばりへ切りこんできたカンカン寅の一味にあわふかせたかっただけさ」
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
多年小六の下にあって、将軍の下に大名のあるが如く、村、部落、山里などの縄張なわばり縄張に、各〻手飼のおおかみ武士を養って、事ある日ばかり待っている者どもなのである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この茫々ぼうぼうたる大地を、小賢こざかしくも垣をめぐらし棒杭ぼうぐいを立てて某々所有地などとかくし限るのはあたかもかの蒼天そうてん縄張なわばりして、この部分はわれの天、あの部分はかれの天と届け出るような者だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
評家は自己の得意なる趣味において専門教師と同等の権力を有するを得べきも、その縄張なわばり以外の諸点においては知らぬ、わからぬと云い切るか、または何事をも云わぬが礼であり、徳義である。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)