縁取ふちど)” の例文
階の両側ふたがわのところどころには、黄羅紗きラシャにみどりと白との縁取ふちどりたる「リフレエ」を着て、濃紫こむらさきはかま穿いたる男、うなじかがめてまたたきもせず立ちたり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
信濃しなのの高原に見るような複雑した雲の変化を見ることはできなかったが、ひろい関東平野を縁取ふちどった山々から起こる雲の色彩にはすぐれたものが多かった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それから、上を向く時には、きまって胡麻塩ごましおの眉を帽子のつばの下で、高く釣り上げる。そうすると、その眼のただれてみじめに縁取ふちどられているのがよく見えた。
岸を上って、山と山との谷間の細道を、しばらく行くと、地下へのトンネルが、古風な赤煉瓦あかれんが縁取ふちどりで、まるで坑道へでも下る様に、ポッカリと黒い口をいている。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その馬道は羊齒しだ土堤どての間を通り、ヒースの茂りを縁取ふちどつてゐる荒れ果てた幾つかの小さな牧場
諸君がもし折があって、コルシカ島の金山モンテ・ドロの麓を旅行されるならば、はるかなる森蔭から、黒柳で縁取ふちどりした深い谿谷の底から、今もなお優しい草津節を聞かれるであろう。
えぐられたように痩せ落ちた顳顬こめかみや頬、そういう輪廓を、黒い焔のような乱髪で縁取ふちどり、さながら、般若はんにゃ能面おもてを、黒ビロードで額縁したような顔を、ヒタと左門へ差し向けたが
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ眼の処だけが黄色く縁取ふちどられた、透明なセルロイドになっております姿は
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
窓と云う窓には鎧戸よろいどがおろしてあるけれど、その隙間からさし込んで来る初夏らしい真昼のあかりが、色ガラスを透して来たような赤味を帯びてどんより物の輪廓りんかく縁取ふちどっている部屋の中で
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
吾吾日本人は世界の地震帯に縁取ふちどられ、その上火山系の上に眠っているわが国土の危険に想到して、今さらながら闇黒な未来に恐怖しているが、しかし考えてみれば、吾吾は小学校へ入った時から
日本天変地異記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)