納涼台すずみだい)” の例文
旧字:納涼臺
岩端いわばなや、ここにも一人、と、納涼台すずみだいに掛けたように、其処そこに居て、さして来る汐をながめて少時しばらく経った。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一軒の茶店ちゃみせのような家が眼の前にあった。そこはみちの幅も広くなっていた。一けんくらいの入口には納涼台すずみだいでも置いたような黒い汚い縁側えんがわがあって、十七八の小柄な女が裁縫さいほうをしていた。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蝦蟇とお通のあるためなりと納涼台すずみだいにて語り合えるを美人はふと聞噛ききかじりしことあればなり、思うてここに到るごとに、お通は執心の恐しさに、「母上、母上」と亡母を念じて
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これかのお通の召使が、いま何人なんぴとも知り得ざる蝦蟇法師の居所を探りて、納涼台すずみだい賭物かけものしたる、若干の金子きんすを得むと、お通のとどむるをもかずして、そこに追及したりしなり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月夜烏もそれかと聞く、時鳥ほととぎすの名に立って、音羽九町くちょう納涼台すずみだいは、星を論ずるにいとまあらず。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毎夕納涼台すずみだいに集るやからは、喋々ちょうちょうしく蝦蟇法師のうわさをなして、何者にまれ乞食僧の昼間の住家を探り出だして、その来歴を発出みいださむ者には、賭物かけものとしてきん一円をなげうたむと言いあえりき
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かまち納涼台すずみだいのやうにして、端近はしぢかに、小造こづくりで二十二三のおんなが、しつとりと夜露よつゆに重さうな縞縮緬しまちりめんつまを投げつゝ、軒下のきしたふ霧を軽く踏んで、すらりと、くの字に腰を掛け、戸外おもてながめて居たのを
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)