竹矢来たけやらい)” の例文
旧字:竹矢來
もうその時は、作業場と町屋の境に出来ている竹矢来たけやらいの木戸で、真っ黒にかたまった人間の怒号が黄いろいほこりにつつまれていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
磔柱はりつけばしらは周囲の竹矢来たけやらいの上に、一際ひときわ高く十字を描いていた。彼は天を仰ぎながら、何度も高々と祈祷を唱えて、恐れげもなく非人ひにんやりを受けた。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
同じなら、竹矢来たけやらいを組んでよ、検視の役人付添いの上、ドンドンと太鼓を叩いて、揚幕からんず静んずと出てみたいやな。
いまになつてみると、死ぬ事は安々とした気持ちでもあつたのだ。自分のひそかな絶望の形態が、竹矢来たけやらいのやうに、自分の周囲に張りめぐらされた気がした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
馬場の一面には、八幡宮の鳩と武田菱たけだびしとの幔幕まんまくが張りめぐらされてあり、その外は竹矢来たけやらいでありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
門の前には竹矢来たけやらいが立てられて、本堂再建さいこんの寄附金を書連かきつらねた生々しい木札が並べられてあった。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
第一の必要が高燥で日当りの好い土地ですから物置ものおき檐下のきしたで南向きの処を択べばそれで沢山です、先ず其処そこを一坪竹矢来たけやらいかこいます。一坪なくとも奥行四、五尺位でも構いません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そのお仕置き場の回りにぐるっと竹矢来たけやらいを結って……
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
子供のおまえにそんなことを話してもしかたがねえが、男は一どは見ておくものだそうだから、あさっての夕方、都田川みやこだがわ竹矢来たけやらいのそとへ見にきねえ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人力車じんりきしゃ賃銭ちんせんの高いばかりか何年間とも知れず永代橋えいたいばし橋普請はしぶしんで、近所の往来は竹矢来たけやらいせばめられ、小石や砂利で車の通れぬほど荒らされていた処から、れも彼れも
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
再び天が晴れた時、磔柱の上のじゅりあの・吉助は、すでに息が絶えていた。が、竹矢来たけやらいの外にいた人々は、今でも彼の祈祷の声が、空中に漂っているような心もちがした。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
王婆は、竹矢来たけやらいの中でも、泣きどおしに泣いて斬られた——時刻もちょうどその頃であった。一方の武松は、奉行所の裏門外で、四十の“青竹叩き”を背にうけていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と——蛾次郎も卜斎の視線しせんにならってその方角ほうがくへ目をやってみると、竹矢来たけやらいの一かく、そこはいまあらかたの弥次馬やじうま獄門台ごくもんだい掲示けいじ高札こうさつを見になだれさったあとで、ほのあかるい夕闇ゆうやみに、点々てんてん
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)