はづ)” の例文
低い人家の軒にはもう灯がつきめて、曇つたまゝに暮れて行く冬の空は、西のはづればかりが黒い瓦屋根の上に色もなく光つて居る。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
はづれの河堤の桜が咲きはぢめて、夜桜の雪洞が燭いたから花見へ行つて見ないかと近所の若者に誘はれたが滝本は、昼も夜も自分の部屋に引き籠つてゐた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
堺の街はづれは即ち和泉の国端れになつて居る程に、和泉の最北端にあるのです。摂津せつつの国とは昔は地続きでしたが、今は新大和川しんやまとがはと云ふ運河が隔てになつて居ます。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さびしい街はづれの橋の上はなかなか通りませんでした、そしてその日は暮れてしまひました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
私の眼の屆くモオトンの谷道たにみちをくねつてゐる邊りでは、半ば樹立こだちに隱れて教會堂と牧師館、そして遙かはづれの方にお金持のオリヴァ氏とその娘の住んでゐるヴエイル莊の屋根があるだけで
彼の期待ははづれて、横井は警官の説諭めいた調子で斯う繰り返した。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
自分はこの場合の感情——フランスの恋と芸術とを後にして、単調な生活の果てには死のみが待つて居る東洋のはづれに旅して行く。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そこで猫は焼いた魚を口にくはへて、奥様や女中さんの知らないまに、そつと裏口から脱けだしました、そしてどんどんと駈け出しました、ちやうど街はづれの橋の上まできましたときに猫は魚にむかつて
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
人もさう思へば自分も亦傳説から神聖視して居た富士の靈山は、丁度巴里の大道から其のはづれに望むマドレーンの寺院の三角形をなす屋根位にしか高く見えなかつた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
広い道が爪先上りに高くなつてゐるはづれに、橋の欄干の柱が見え、晴れた空が遮るものなく遠くまでひろがつてゐて、今だに吹き荒れる烈風が猶も鋭い音をして、道の上の砂を吹きまくり
にぎり飯 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この云ひがたい遠国的の情調は、マニラから避暑に来る米国の軍人が騒いで遊ぶ丸山遊廓の絃歌の声、或はまた長崎の街々のはづれにある古寺の鐘のによつて、一層深くあぢはひ得られるのであつた。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)