立消たちぎえ)” の例文
しゃさけ出来栄できばえに、たちまち一部の册子そうしとなりぬ。そもこの話説はなしの初集二集は土竈どがまのパットせし事もなく。起炭おこりずみにぎやかなる場とてもあらねど後編は。駱駝炭らくだずみ立消たちぎえなく。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
僕はこの怜悧で活溌な娘が嫌ではないが、早く妻を持とうという気はないのだから、この話はどうなるともなしに、水が砂地に吸い込まれるように、立消たちぎえになってしまった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
このまゝでは、生きながらの立消たちぎえだ。次第に俺は、俺といふ個人性を稀薄にして行つて、しまひには、俺といふ個人がなくなつて、人間一般に歸して了ひさうだぞ。冗談ぢやない。
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
立消たちぎえのしない上等の土釜を起してテンピの上へ載せておきますが二、三十分過ぎると灰が沢山出来て火力を弱くしますから折々団扇うちわで強くあおいでその灰を払わなければなりません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その後、兄からは何の沙汰さたもなく、節子自身からの折々の便りの中にも何もその事に就いて書いて無いところを見ると、恐らくその話は立消たちぎえになったものであろうと思われたが——
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
有馬行ありまゆきは犬のせいでもなかったろうけれども、とうとう立消たちぎえになった。そうして意外にも和歌わかうら見物が兄の口から発議ほつぎされた。これは自分もかねてから見たいと思っていた名所であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昨日のお話は立消たちぎえになったが、如何どうだろうか。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし彼の手を着けかけたという鉱山事業はそれぎり立消たちぎえになってしまった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)