空罐あきかん)” の例文
新字:空缶
ドゥモンの砲台のわきから細い裏道づたいに下ってゆくと、すすきに似た草の穂がゆらいでいる砲弾穴に、さびた鉄兜や空罐あきかんがころがっている。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
諸君自身のもっと高い緯度の地帯を探険したまえ——もし必要なら、食いつなぐべき保存食肉を船につんで、そして目印しに空罐あきかんを山と積みたまえ。
窓の鎧戸よろいどの破れから覗いてみると、なかの薄暗がりに椅子いすテーブルが片寄せに積みあげられ、ねずみが喰ひ散らしたらしい古新聞や空罐あきかんなどがちらばつてゐる。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
有田ドラッグの薬の空罐あきかんが幾つも残っており、薬がなくなると薬代をもらいに銀子のところったこともあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二人の子が順番でかわるがわる取るのであったが、年上のほうは虫に手をつけるのをいやがって小さなショベルですくってはジャムの空罐あきかんへほうり込んでいた。
簔虫と蜘蛛 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夕方の配達を済ました牛乳の空罐あきかんを提げながら庭を帰って行く同級生もあった。流行歌はやりうたの一つも歌って聞かせるような隠芸のあるものはこの苦学生より外に無かった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その途中に家並がとぎれて空地つづきになったところがある、右も左も荒れた草原で、いかにも場末らしくやたらに紙屑かみくずだの空罐あきかんだのの塵芥じんかいが汚ならしく捨ててあるんだ。
陽気な客 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
監督が石油の空罐あきかんを寝ている耳もとでたたいて歩いた。眼を開けて、起き上るまで、やけに罐をたたいた。脚気かっけのものが、頭を半分上げて何か云っている。しかし監督は見ない振りで、空罐をやめない。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
ブリキの空罐あきかんを肩に掛けていっしょにごみ箱をあさりました。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
空罐あきかんだの洋酒やビールのびんだの、雑誌、新聞、ぼろ類など、一度では運びきれないほど多量な品が、月に二度ずつ出るし、それらの代価は取らず、「片つけてもらう」のだからと云って
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
外には五人の少年たちが、洗面器やバケツや空罐あきかんなどを持って立ってい、私を見ると一列縦隊に並んだ。先頭にいるのは「千本」の長で、かんぷりの顔も見え、みんな泥まみれのはだしであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)