いとけな)” の例文
鼻のあたまに汗をかいて大正琴を弾いていたいとけないふりはもう見られなかった。私には彼女が自分より年うえのような気さえした。
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
なん坪太郎つぼたろうと名づけ、鍾愛しょうあい此上無かりしが、此男子なんし、生得商売あきないの道を好まず、いとけなき時より宇治黄檗おうばくの道人、隠元いんげん禅師に参じて学才人に超えたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
われらいとけなき頃その名を聞きてさへ恐れて泣き止みしものをと心づけば、追想おのづから縷々るるとして糸を繰るが如し。その頃植物園門外の小径は水田に沿ひたり。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
幾年もまえに山からくる清水の落ち口に彼らの最初のひれをふった鱒の子はその父となり母となるときがくるといとけないころ乳房を含むことを知らぬその口にはじめて吸った清水の味を
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「何分まだいとけないが、そちの組へ預けておく。よく仕込んで与えよ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みちのくにいとけなくしてかなしみし釣鐘草つりがねさうの花を摘みたり
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そはいとけな三歳さんさいのむかしなれば。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
いつか私は彼に頼っていました。そうしてはてはこの友達に向って持前のいとけなさをさらけ出してしまいました。私は月にそっくり打ち明けて話しました。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)