稍〻やゝ)” の例文
思へば悟道ごだうの末も稍〻やゝ頼もしく、風白む窓に、傾く月をさしまねきてひやゝかに打笑うちゑめる顏は、天晴あつぱれ大道心者だいだうしんしやに成りすましたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
かうして稍〻やゝ半時間も過ぎたと思ふ頃、かすかに妻の寝息が聞こえ始めた。妻の思ひとちぐはぐになつた彼の思ひはこれでとう/\全くの孤独に取り残された。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
さればわれは稍〻やゝ小なるものをとて、ダンテを撰びぬ、ハツバス・ダアダア冷笑あざわらひていふ。ダンテを詠ずとならば、定めて傑作をなすなるべし。そは聞きものなり。
巫女みこの持つてゐる様な小さな鈴玉がちりん/\と彼の手に鳴つて居た。やがて彼は床の間に、小さな幣帛へいはくを飾り、白米と塩とを其の前に供へて、稍〻やゝ久しく黙祷した。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
之に就いては度々諸方から議論がありました。少し野卑なことを申しまするけれども、此度の假名遣に於けるところの許容と云ふことは、稍〻やゝとんちんかんだと思ふのであります。
仮名遣意見 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
はば、光耀くわうえう時代、啓示時代なりきとも見るべく、予は実に昨一年間に於いて、不思議にも三たびまでもこれまでに経験したることなき稍〻やゝ手答へある一種稀有の光明に接したるなり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
稍〻やゝ高き林木の間に、屋瓦のそうを成せるはアンナア、カプリイの小都會なり。一橋一門ありてこれに通ず。一行は棕櫚しゆろの木立てるパガアニイが酒店の前に歩を留めつ。
横笛今は稍〻やゝ浮世に慣れて、風にも露にも、餘所よそならぬ思ひ忍ばれ、墨染のゆふべの空に只〻一人、わたる雁の行衞ゆるまで見送りて、思はず太息といきく事も多かりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
大臣の信用は屋上のとりの如くなりしが、今は稍〻やゝこれを得たるかと思はるゝに、相沢がこの頃の言葉の端に、本国に帰りて後も倶にかくてあらば云々しか/″\といひしは、大臣のかくのたまひしを
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
平三は稍〻やゝ安心した。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
たきゞる翁、牛ひくわらんべ、餘念なく歌ふふし、餘所に聞くだに樂しげなり。瀧口く/\四方よもの景色を打ち眺め、稍〻やゝ疲れを覺えたれば、とある路傍の民家に腰打ち掛けて、暫く休らひぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)