秋波ながしめ)” の例文
そして、月の秋波ながしめがあの絶壁の上の音楽堂に注がれた時、どんなにあの白い建築が、方解石のように美しく、形よく見えることだろう。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは美しい女であったが、珏の方を見てにっと笑って、何かいいたそうにしたが、やがて秋波ながしめをして四辺あたりを見た後にいった。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
わたいのを使って下さらなくッて。)と落着いて、しずか秋波ながしめていいながら、ちょいと、仰向あおむいて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「きっとあなたはいつもそんなふうな眼で侍女たちを眺めていらっしゃるんでしょう、若い召使などがちょっと秋波ながしめをくれでもすると、あなたはもうすぐのぼせあがって」
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ナウチ族の踊り子の一隊、黄絹のももひきに包まれた彼女らの脚、二つの鼻孔をつないでいる金属の輪、螺環コイルの髪、貝殻かいがらの耳飾り、閃光せんこうする秋波ながしめ、頭上に買い物を載せてくる女たち
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
少々ぐらいは秋波ながしめなりとそれなる兄弟にお与えなさって、巧みに誘い出さるがよろしゅうござりまするぞ。かの者どもといっしょに泳ぐ旨も忘れずに申されてな。のう、よろしゅうござるか
笑っていたお京の切れ長の眼が、複雑な思いをこめた秋波ながしめになる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
釣舟草つりぶねさう不謹愼ふきんしんの女である、秋波ながしめをする、しなをする。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
観客の中でいちばん美しい娘さんに秋波ながしめした
ゼウスは彼女に送ります、悠然として秋波ながしめ
いいいいそこは色情いろ資本もとでに、世を過ごして来た彼女であった。眼を細め唇をすぼませ、次々に浪人どもへ秋波ながしめを送った。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と言い懸けて少し体をななめにして、秋波ながしめで男を見ながら指示さししめすがごとく、その胸に手を当てた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秋波ながしめで一生を終り
と笑い捨てて少年は乱暴に二階に上るを、お貞は秋波ながしめもて追懸けつつ
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)