石塀いしべい)” の例文
といって伝吉は、前の方へ身を泳がせ、かど石塀いしべいにその勢いでひたいをぶつけたらしく、鼻血を抑えたまま小溝こみぞへりへ倒れました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここの城はなかなか堅固に出来て居りまして、その南方に当り両脇りょうわきの山に沿うて大いなる石塀いしべいが建てられてありその真中まんなかに門が二つあるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この辺は要塞ようさいが近いので石塀いしべい煉瓦塀れんがべいを築くことはやかましいが、表だけは立派にしたいと思って問い合わせてみたら、低い塀は築いても好いそうだから
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
金網を板囲いでしきられた遊歩所のようなところもこの建物を囲った石塀いしべいのそばにありましたが、狭い金網の中にも青々と雑草が繁っていて、倉庫のようなところに
銃槍じゆうそう忍返しのびがへしを打ちたる石塀いしべいあふれて一本ひともとの梅の咲誇れるを、ななめに軒ラムプの照せるがそのかどなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
人目につかぬ石塀いしべいの隅へ、消し炭で書いてあった文字である。それは、法月弦之丞のりづきげんのじょうが、自分へ意思を伝えようとしたものであるのはあきらかであった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今は西教寺も願行寺も修築せられ、願行寺の生垣は一変して堅固な石塀いしべいとなった。ただ空にそびえて鬱蒼うっそうたる古木の両三株がその上をおおうているだけが、昔の姿を存しているのである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)