矢走やばせ)” の例文
「ウム、空模様さえよければ、夜旅をかけて矢走やばせ渡船わたしに夜をかすのもいいが、この按配あんばいでは危なッかしい……」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近江の湖水では矢走やばせの渡しがあるが、これを渡ることは禁ぜられていた。それは比叡颪ひえいおろしの危険を慮かってのことであった。私どもも勢田せたの長橋を渡って大津へ入込んだ。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
どこということは別に明白ではありませんが、仮に近江おうみ矢走やばせわたしとでもしましょうか。どこか降りそうな空合でもありましたが、また明るくなって持ちなおすらしい模様でありました。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
勢田せたでは風邪でも引込んでるらしい血走つた眼をした夕陽を見た。矢走やばせでは破けた帆かけ船を見た。三井寺ゐでらでは汽車の都合があるからといつて、態々わざ/\頼んで十五分程早目に時の鐘をいて貰つた。
矢走やばせが見える、三井寺が見える、もう大津へはすぐである。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
真直まっすぐ矢走やばせを渡る胡蝶こちょうかな 木導もくどう
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「まだよいなのに、矢走やばせ(矢橋または八馳)へかよう船がないはずはない。そのへんの小屋に、船頭せんどうがいるであろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女が、矢走やばせの渡船場で、道を訊ねたのを知った八弥は、一船あとから上陸あがるとすぐに、同じ渡船小屋へ行って、今行った女が何を訊いて行ったのかを抜目ぬけめなくただしてみた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ところでねえさん、矢走やばせ渡船場とせんばから四明ヶ岳の方にはいるには、この街道一筋だろうね」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蹴上けあげを越えた蜿蜒えんえん甲冑かっちゅうは、さらに、矢走やばせで待ちあわせていた一軍を加え、渡頭の軍船は、白波をひいて湖心から東北に舳艫じくろをすすめ、陸上軍は安土その他に三晩の宿営を経て、十日
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「うるさかったら乗ってくンねえ。陽のあるうちに矢走やばせ渡船わたしを越えて、草津泊りは楽なもんでさ。下駄ばきでカラコンカラコンやっていた日には、これから大津までもむずかしゅうがすぜ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
矢走やばせへ通う松本の船渡しから、一番船のでる知らせである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)