疾走はし)” の例文
「そ、そんな馬鹿な事はない。もしもそうとすれば、機関車は独りで疾走はしって行った事になる——。と、とんでもない事だ!」
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
そして間をおいて青白い瓦斯燈ガスとうともっている右側の敷石の上を歩いてゆくと、突然前方の暗闇から自動車が疾走はしってきて、彼の横を通り過ぎた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
のへんだか、何時頃だか判らなかった。汽車は無限に疾走はしってるようで、いつ夜明が来るとも思われないようだった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
疾走はしれるものを見るなかれ
巡礼紀行 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
もう風も静まって大分白み掛けた薄闇の中を、フル・スピードで疾走はしり続けながら、落ついた調子で、喬介は助役へ言った。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
エリスは五百ポンドの金を引出すと、直に表へ出た。坂口は背後から声をかけたが、エリスは一向気が附かぬらしく、待たせてあった自動車に乗って疾走はしり去った。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
やみいて疾走はしっている三等急行は、非常に動揺が激しかった。女房は到々とうとう三番めの子を腰掛にほうり出し、真ッ青な紙のような顔をして窓口にしがみついていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
そして、雪の積っていない軌条を追い求める様にして、もうひとつの達磨転轍器だるまポイントを切換えた私達は、とうとう臨港線の赤錆た六十五封度ポンド軌条の上へ疾走はしり出た。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
書きかけては鉛筆をめながら眼をあげた。どのへんだか、何時頃だか判らなかった。ただ激しい風と暗闇くらやみいて疾走はしりつづけている列車の轟音ごうおんだけがきこえていた。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
同時に自動車は粗末な服装をした老人を後に残して、商家の立並んだ大通へ疾走はしっていった。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
一台の幌型自動車フェートンが、熱海から山伝いに箱根へ向けて、十国峠へ登る複雑な登山道を疾走はしり続けていた。
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
瀕死の状態に陥っているA老人を旅館に残しておきながら、停車場からすぐ旅館へ行かずに、飛んでもない方角違いのH通りを疾走はしっていたのは不思議じゃアありませんか。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
と言うのは、つまり被害者の霊に対するささやかな供養の意味で、小さな安物やすもんの花環を操縦室キャッブの天井へ、七七日の間ブラ下げて疾走はしると言う訳なんです。二人は早速それを実行に移しました。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
たちしぶる宿の内儀かみさんを引立てゝ、一行は海浜旅館へ自動車を疾走はしらせた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)