もっこ)” の例文
第一種の話というのは、ある男が六十になった親をもっことかあじかとかに入れて、小さい息子むすこに片棒をかつがせて、山の奥へ棄てに行く。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
廊下(漁舎のこと)を中心とする数十間の地の積雪は、屈強な男たちの担ぐもっこに運ばれて、またたく間に除かれてしまった。
鰊漁場 (新字新仮名) / 島木健作(著)
身体強健、なおよくくわを執り、もっこにない、旦暮たんぼ灌漑かんがいしてずから楽んでおります。いわゆる老而益壮おいてますますさかんなると申すは、この人のいいでござりましょう。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
土堤下から畑のくろに沿うて善ニョムさんは、ヨロつく足を踏みしめ上ってくると、やがて麦畑の隅へ、ドサリともっころした。——ヤレ、ヤレ——
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
青黒い顔をした老若が、もっこをかついで来ては、その水のなかへ土をぶちまけていた。築堤の工事である。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
其の内に追々囚人が送られてまいりますが、中には歩けませんでもっこに乗って参る者もございます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
前の急な坂を下りかかると、その途中で、一人の、空のもっこを背負い、息苦しそうにすっかり胸をはだけた、よぼよぼのおじいさんとすれちがいざま、何か問いかけられた。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その土のもっこの中からの落ちこぼれが、あの竹生島ちくぶじまや、沖ノ島になって残っているのだそうです。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「おれのほうは大失敗。……お前のもっこに乗せられたばっかりに飛んだ赤ッ恥を掻いた。……おい、ひょろ松、お気の毒だがな、棺桶は玄関から奥へは入ってはいなかったんだぜ」
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
もっこかついでひのきしん」と云う歌のところでは、六人ながら新しい畚をになって踊った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そしてまだ死に切らないたらの尾をつかんで、こいしのように砂の上にほうり出す。浜に待ち構えている男たちは、目にもとまらない早わざで数を数えながら、魚をもっこの中にたたき込む。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
米は何俵も蓄えてあるし、野菜物は畑から一度にもっこ一杯も取って来るし、鶏といえば必ず一羽ですし、川魚は何斤という斤目ではかります。そしてそれに応じて一度の煮物も多量です。
香奠 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
父を説きつけて祖父そふをつれもどったという点は、第一種のもっこをもってかえろうといった話であり、それから家にかくして置くうちに祖父の智恵によって
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
馬小屋の横から一対いっついもっこを持ってくると、馴れた手つきでそのツカミ肥料を、木鍬きぐわい込んだ。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
君が行かないなんていったって、がんじからめにしてもっこに乗せたって連れて行くわよ。