町奴まちやっこ)” の例文
黙々と考え沈んでいる町奴まちやっこたちのところへ、じつに伝法な、だが、むしろぶきみなくらいに物静かな尋問の矢が向けられました。
その晩のきりが『花競八才子はなくらべはっさいし』という題で、硯友社の幹部の面々が町奴まちやっこ伊達姿だてすがたで舞台に列んで自作の「つらね」を掛合かけあいに渡すという趣向であった。
と人浪を掻き分けてきた骨節ほねぶしの強そうな六部姿の町奴まちやっこ二人、ばらばらッと幕の中へ飛び込もうとする様子なので、客呼びの源七は慌てて二人の袖を引ッ掴んだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おまえと息子には屹度きっと巴里パリを見せてやるぞ」と言った。恩怨おんえんの事柄は必ず報ゆる町奴まちやっこ風の昔気質むかしかたぎの逸作が、こう思い立った以上、いつかそれが執り行われることは明かである。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
旗本奴はたもとやっこではない。といって、町奴まちやっこでは勿論ない。が、いわばちまたきょうである。町の男伊達おとこだてである。喧嘩渡世という看板をあげているとおり、喧嘩なら、何でも買うのだ。何でも買う。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それに町奴まちやっことか云いまして幡隨院長兵衞ばんずいいんちょうべえ、又は花川戸はなかわど戸澤助六とざわすけろくゆめ市郎兵衞いちろべえ唐犬權兵衞とうけんごんべえなどと云う者がありまして、其の町内々々を持って居て、喧嘩けんかがあればすぐに出て裁判を致し
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
旗本奴はたもとやっこ町奴まちやっこ、それと並び称された浪人組、衣裳も美々びびしく派手を極め、骨柄いずれも立派である。その数合わして六七十人、真昼間の春の盛り場で、華やかに切り合おうというのである。
二人町奴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
青くなってふるえ上がっている家族や奉公人の中から、平次の顔を見ると、いきなり飛出して来たのは三十前後の恰幅かっぷくの立派な男、ひげの跡の青々とした、ただの呉服屋の番頭というよりは、町奴まちやっこ
一見するに、中のひとりは親分、あとのふたりはその子分と思われる町奴まちやっこふうの三人なのでした。
思い切り大柄な浴衣に、紫紺緞子しこんどんすへ銀糸の入った帯を派手に締め、来て見よがしの唐犬額とうけんびたいという風装つくりは、云わずと知れたこの時代の町奴まちやっこ。薬研堀の生不動与兵衛であった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「此節急にはびこって来た、町奴まちやっこ男達おとこだての仕業じゃありませんか」
「あっしも男達おとこだてとか町奴まちやっことか人にかれこれいわれる江戸っ子、いうな、いいませぬと男に誓って頼まれたからにゃ、鉛の熱湯をつぎ込まれましても名は明かされませぬッ」
あッしとても人から男達おとこだてだの町奴まちやっこだのとかれこれ言われて、仮りにも侠気おとこぎを看板にこんなやくざ稼業をしておって見れば、決して死ぬのを恐ろしいとも怖いとも命に未練はねえんですが