田畠たはた)” の例文
おまけに、諸色しょしきは高く、農業にはおくれ、女や老人任せで田畠たはたも荒れるばかり。こんなことで、どうして百姓の立つ瀬があろう。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見る見る、目の下の田畠たはたが小さくなり遠くなるに従うて、波の色があおう、ひたひたと足許に近づくのは、海をいだいたかかる山の、何処いずこも同じならいである。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木綿もめんというものの我邦わがくにに知られたのは、相応に古いころからのことであったようだが、わたという作物さくもつを、諸処方々しょしょほうぼう田畠たはたにうえ、それから綿を取り糸をつむいで
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「電気というものは、長い線で山の奥からひっぱって来るもんだでのイ、その線をば夜中にきつねたぬきがつたって来て、このきんぺんの田畠たはたを荒らすことはうけあいだね」
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
三千代の父はかつて多少の財産ととなえらるべき田畠たはたの所有者であった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
馬籠は田畠たはたの間にすら大きくあらわれた石塊いしころを見るような地方で、古くから生活も容易でないとされた山村である。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しろく、くもしろく、そらしろい。のんどりとして静寂せいじやく田畠たはたには、つち湧出わきでて、装上もりあがるやうなかはづこゑ。かた/\かた/\ころツ、ころツ、くわら/\くわら、くつ/\くつ。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
火山の麓にある大傾斜を耕して作ったこの辺の田畠たはたはすべて石垣によって支えられる。その石垣は今は雑草の葉で飾られる時である。石垣と共に多いのは、柿の樹だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのかわり雪の積った後と来ては、堪えがたいほどのみ方だ。雪のある田畠たはたへ出て見れば、まるで氷の野だ。こうなると、千曲川も白く氷りつめる。その氷の下を例の水の勢で流れ下る音がする。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
木曾も妻籠から先は、それらの自然の恵みを受くべき田畠たはたとてもすくない。中三宿となると、次第に谷の地勢もせばまって、わずかの河岸かしの傾斜、わずかのがけの上の土地でも、それを耕地にあててある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)