生駒山いこまやま)” の例文
昼御飯の代りに煮抜にぬきたべながら、大仏殿の屋根から生駒山いこまやまの方見てますと、「この前わらび土筆つくしたんと採ったわなあ、姉ちゃん」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「殿様、わたくしはあなた方に御別れ申してから、すぐに生駒山いこまやま笠置山かさぎやまとへ飛んで行って、このとおり御二方の御姫様を御助け申してまいりました。」
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしそれには関りもない広い快い田圃たんぼはどの街筋の出口にもかかつた土橋や石橋の直ぐ向うに続いて居ます。河内かはち生駒山いこまやま金剛山こんがうざんの麓まで眺める目はものに遮られません。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
成程なるほど自分の役柄は拙者せつしやも心得てをります。しかかしら遠藤殿の申付まをしつけであつて見れば、たと生駒山いこまやまを越してでも出張せんではなりますまい。御覧のとほり拙者は打支度うちしたくをいたしてをります。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
東には三笠山の連山と春日の森、西には小高い丘陵が重なった上に生駒山いこまやま。それがみな優しい姿なりに堂々としてそびえている。堂々としてはいても甘い哀愁をさそうようにしおらしい。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
秋篠の村はずれからは、生駒山いこまやまが丁度いい工合に眺められた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
生駒山いこまやまのケーブル・カアのイルミネーションがずうっと珠数じゅずのようにつながって、紫色した靄のあいだから、ところどころ絶えては続いてまたたいてます。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
やがて髪長彦かみながひこ生駒山いこまやまへ来て見ますと、成程山の中程に大きな洞穴ほらあなが一つあって、その中に金のくしをさした、綺麗きれい御姫様おひめさまが一人、しくしく泣いていらっしゃいました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「わん、わん、御姉様おあねえさまの御姫様は、生駒山いこまやま洞穴ほらあなに住んでいる食蜃人しょくしんじんとりこになっています。」と答えました。食蜃人しょくしんじんと云うのは、昔八岐やまた大蛇おろちを飼っていた、途方もない悪者なのです。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)