生先おいさき)” の例文
蔭ながら彼は節子に願っていた。旅にある自分のことなぞは忘れて欲しい、生先おいさきの長い彼女自身のことを考えて欲しいと。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
白州しらすを下がる子供らを見送って佐佐は太田と稲垣とに向いて、「生先おいさきの恐ろしいものでござりますな」と言った。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
生先おいさきの長い彼めが人様に恨まれるようなことのないようにせねばなりませぬ、とおろおろ涙になっての話し。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
痩せても枯れても遠山龜右衞門のむすめじゃアないか、幾許零落おちぶれても、私は死んでも生先おいさきの長いお前が大切で私は定命じょうみょうより生延びている身体だから、私の病気が癒ったって
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ようやくその一人娘がおとなびて来ると、ふた親は自分等の生先おいさきの少ないことを考えて、自分等のほかには頼りにするもののない娘の行末を案じ、種々いろいろいい寄って来るもののうちから
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
とお祖父さんは椎の木一本にも生先おいさき短促たんそくを覚えているのだった。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あの生先おいさきこもる望み多いからだで、そんな悪い鬼にさいなまれていようとは思いがけなかったと言って
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あの生先おいさき長いものが、むごらしいことにもなりまするのでござりまするから。」
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
文「何うもしない、手前のような強慾ごうよく非道な者を生かして置くと、生先おいさき長き両人の為にならん、手前一人をくびり殺して両人を助ける方が利方りかただからナ、此の文治郎が縊り殺すから左様心得ろ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの無邪気な指先から流れて来るメロディでも聞いて老年の悲哀と寂寞せきばくとを忘れようとする人と、まだ生先おいさきの長い若草のような人との隔たりに譬えて見たことがある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
文治郎元より一命をなげうっても人の為だ、わしがお前と一度でも添臥そいぶしすればお前はもうへ縁付くことは出来ぬ、十七八の若い者、生先おいさき永き身の上で後家を立てるようなことがあっては如何いかにも気の毒
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)