おじ)” の例文
懸想した猪熊いのくまおじと懸想された猪熊のばばと、——太郎は、おのずから自分の顔に、一脈の微笑が浮かんで来るのを感じたのである。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夫人 (次第に立出で、あとへひっかえしざまにすれ違う。なおその人形使を凝視しつつ)おじさん、爺さん。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
猪熊いのくまおじは、老女の救いをると共に、打ち物も何も投げすてて、こけつまろびつ、血にすべりながら、いち早くどこかへ逃げてしまった。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夫人 お待ちなさい、おじさん。(決意を示し、衣紋えもんを正す)私がお前と、その溝川みぞがわへ流れ込んで、十年も百年も、お前のその朝晩の望みを叶えて上げましょう。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家の中から、たちまちけたたましい女の声が、猪熊いのくまおじの声に交じって、彼の耳を貫ぬいた。沙金しゃきんなら、捨ててはおけない。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お金も持っています——失礼だけれど、お前さんの望むこと一つだけなら、きっと叶えて上げようと思うんだよ。望んでおくれな。おじさん、叶えさしておくんなさいな。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山のおじが雲からのぞく。眼界濶然かつぜんとして目黒にひらけ、大崎に伸び、伊皿子いさらごかけて一渡り麻布あざぶを望む。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木戸にかかる時、木戸番のおじわれを見つつ、北叟笑ほくそえむようなれば、おもてを背けて走り入りぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)