無上むしょう)” の例文
そして警句が出れば出る程、忘れる筈の一件が矢鱈やたら無上むしょうに込み上げて、いくら振り落そうと藻掻もがいても始末に悪い事になるのだ。
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お千代は平生へいぜい妹ながら何事も自分より上手うわてと敬しておったおとよに対し、今日ばかりは真の姉らしくあったのが、無上むしょううれしい。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ゆかは低いけれども、かいてあるにはあった。其替り、天井は無上むしょうに高くて、而もかやのそそけた屋根は、破風はふの脇から、むき出しに、空の星が見えた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
彼はそう思うとスラッグが無上むしょうに憎くなって来た。奴はの数ヶ月と云うもの幾度いくたび仕事の邪魔をしたか知れやしない。だがうして仕事を予め感付いたろう。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
滅多無上むしょうに水をき、水を蹴り、一すんでも一尺でも、スクリュウから遠ざかることを忘れませんでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自分も一台のくるまに乗りながら、何は載ったか、何は……ソレ、あの、何よ……と、焦心あせる程尚お想出せないで、何やら分らぬ手真似をして独り無上むしょうに車上で騒ぐ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
老拱は叩かれたのが無上むしょうに嬉しいと見え、酒を一口がぶりと飲んで小唄を細々と唱いはじめた。
明日 (新字新仮名) / 魯迅(著)
東京にゐても夕方になるとそは/\して無上むしょうに茶屋酒が恋ひしくなると云ふ年頃の二人が、パンの会以来久し振りに旅先で落ち合つたのだから溜らない。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ゆくりない日が、半年の後に再来て、姫の心を無上むしょうの歓喜に引き立てた。其は、同じ年の秋、彼岸中日の夕方であった。姫は、いつかの春の日のように、坐していた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「何だか分りませんわ。こんなに花に包まれていて、私は無上むしょうに淋しい気がいたします。来てはならない所へ来た様な、見てはならないものを見ている様な気持なのですわ」
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そういう次第だから、作おんなのお増などは、無上むしょうと民子を小面こづら憎がって、何かというと
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
学科は何時迄いつまでっても面白くも何ともないが、たとえば競馬へ引出された馬のようなもので、同じような青年と一つ埒入らちないに鼻を列べて見ると、まけるのが可厭いやでいきり出す、矢鱈やたら無上むしょうにいきり出す。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それを考えると、私は無上むしょうに怖くなって、いきなり浴場を逃げ出したものであります。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼を無上むしょうに嬉しがらせたことは申すまでもありませんが、その感じは、嬉しいというよりは、いっそ馬鹿馬鹿しく、馬鹿馬鹿しいというよりは、何となく胸がからっぽになった様な
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
変だぞと思うと無上むしょうに怖くなって来た。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)