火炙ひあぶ)” の例文
燃えさかるストオヴの前へ立ったまま、精神的にも肉体的にも、火炙ひあぶりにされている先生へ、何度も生意気なまいきな笑い声を浴びせかけた。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
主人のごとくこんな利目ききめのある薬湯へだるほど這入はいっても少しも功能のない男はやはり醋をかけて火炙ひあぶりにするに限ると思う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大逆管野某女が獄中より出せる状に、房州の某処にて石地蔵の頭を火炙ひあぶりにせしが面白かりし由を記せるなど考え合わすべし。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
そこにドクトルの屍体があって、火炙ひあぶりになろうとしていらあネ。それでは犯人のために都合が悪かろうじゃないか。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「可哀そうな尼さんだな」——「火炙ひあぶりにされるって云うじゃないか」——「血を絞られるのは未だいいよ。楽に夢のように死ねるからな」——「火炙りとは恐ろしい」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夜昼さえ分たぬ土のろうに、みげる弥兵衛を苦しめたねずみも、実は悪魔の変化へんげだったそうである。弥兵衛は元和八年の秋、十一人の宗徒と火炙ひあぶりになった。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
仏陀ほとけの教えこそ讃美ほむべきかな。それは隠遁いんとんの教えではない。勇往邁進ゆうおうまいしん建設の教えだ。禁慾の教え、克己の教えだ。……わしはすぐに殺されよう。妾はすぐに火炙ひあぶりに成ろう。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
天主てんしゅのおん教を奉ずるものは、その頃でももう見つかり次第、火炙ひあぶりやはりつけわされていた。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
火炙ひあぶりにしろ! 火炙りにしろ!」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは折角せっかく火炙ひあぶりも何も、見そこなった遺恨いこんだったかも知れない。さらにまた伝うる所によれば、悪魔はその時大歓喜のあまり、大きい書物にけながら、夜中よじゅう刑場に飛んでいたと云う。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)