こぼ)” の例文
何だなア、定さん、男の癖におい/\泣くのは止しねえ、お内儀様かみさんは女でこそあれ、あゝいう御気象だから、涙一滴こぼさぬで我慢を
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
中にはすでに口を開けて、炭団たどんのように大きな栗の実が、いまにもこぼれ落ちそうに覗いてさえいるのだ。いや、それだけならばまだいい。
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
よく肥った、見事な恰幅かっぷく、そのくせポトポトこぼれるようななまめかしさ、踊りで鍛えた二十三の美女は、全く形容のしようもない妾型の女でした。
杯の酒は殆んどみんなこぼしてしまひ、誰彼の差別なく、そこらにゐるものをつかまへては、「馬鹿野郎。貴公は馬鹿だぞ」などと云つて痛罵を始める。
青春回顧 (新字旧仮名) / 吉井勇(著)
「それにはYも心から感謝して、その話を僕にした時ポロポロ涙をこぼして島田の恩を一生忘れないと泣いていた、」
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
かたわらの机の上に在る固練白粉かたねりおしろいてのひらで溶きながら、一滴もこぼさないように注意しいしい、四一四号の少女の顔、両肩、両腕と、腰から下の全部にお化粧を施し初めました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その仏像の左右の眼には金剛石が嵌められてあって蝋燭の光に反射して菫色すみれいろの光をこぼしている。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朝の日はこぼれてありぬ
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
是迄は涙一滴こぼさぬでいたが、今しも粂之助の顔を見ると、こらえかねて袖を顔へ押宛おしあてて、わっとばかりにそれへ泣倒れました。
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そしてその機体から塵のような汚点しみが、ぽろりと一つこぼれ出た。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
と一杯すくい上げてこぼれない様に、たいらに柄杓のくわえて蔦蔓つたかづらすがり、松柏の根方を足掛りにして、揺れても澪れない様にして段々登って来る処を
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どうも辛くってならねえて涙アこぼして云うだから、旦那が憫然かわいそうだというので、金えくれたのが初まり、それから旦那がもれえ切ってくれべいといった時、手を合せて
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
当家うちのお内儀様いえはんはこないに諦めのえお方やから、涙一滴こぼさぬが、鳶頭が仲へ這入って口を利き、もう甲州屋のうちへは足踏をさせぬと云い切って引取ったのやないか、それじゃのに
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)