満天星どうだん)” の例文
三年も見なかった間に可成かなりな幹になった庭の銀杏いちょうへも、縁先に茂って来た満天星どうだんの葉へも、やがて東京の夏らしい雨がふりそそいだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なお見るとそこから十数間はなれた、満天星どうだんの木の蔭の暗い所にも、同じ姿をした二人の人間が、館の方を睨みながらひそんでいた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
丸い満天星どうだんや霧島の躑躅などは、ことに鋏を入れた後に出た芽が美しかつた。人工といふものも貴いものだなどと今更らしく思はれるのも面白い。
中秋の頃 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
親父おやじが死んでから春木町を去って小石川の富坂とみざかへ別居した。この富坂上の家というは満天星どうだん生垣いけがきめぐらしたすこぶる風雅な構えで、手狭てぜまであったが木口きぐちを選んだ凝った普請ふしんであった。
あさみどり満天星どうだんの芽の日に映えて新刀はよしひとふりふたふり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「渡り鳥が来たようでございますね。満天星どうだんの葉を散らしています。おや、椋鳥むくどりでございます」こういったのはイスラエルのお町。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その庭には勢いよく新しい枝の延びた満天星どうだんや、また枯々とはしていたが銀杏いちょうの樹なぞのあることが、彼女をよろこばせた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
で、小松や満天星どうだん茱萸ぐみや、はぜ野茨のいばらなどで、丘のように盛り上がっている、藪の蔭に身をかくしながら
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それを三吉が姉に言って、達雄が立って写した満天星どうだんの木の前へ行きながら、そこは正太が腰掛けたところ、ここは大番頭の嘉助が禿頭はげあたまを気にしたところ、と指して見せた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
年を経た松やひのきや杉、梧桐や柏の喬木が、萩や満天星どうだんはぜなどの、灌木類とうちまじり、苔むした岩や空洞うろとなった腐木くちきが、それの間に点綴てんてつされ、そういうおそろしい光景を
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの満天星どうだんを御覧、と言われて見ると旧い霜葉はもうくに落尽して了ったが、茶色を帯びた細く若い枝の一つ一つには既に新生の芽が見られて、そのみずみずしい光沢のある若枝にも
三人の訪問者 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
記念の為、奥座敷に面した庭で、一同写真をることに成った。大番頭から小僧に至るまで、思い思いの場処に集った。達雄は、先祖の竹翁が植えたという満天星どうだんの樹を後にして立った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの満天星どうだんを御覧、と言われて見ると、ふるい霜葉はもうとっくに落尽してしまったが、茶色を帯びた細く若い枝の一つ一つには既に新生の芽が見られて、そのみずみずしい光沢つやのある若枝にも
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)