涕泣ていきゅう)” の例文
許嫁の妹の涕泣ていきゅうに発声法上の欠陥のある事に気づいて、その涕泣に迫力を添えるには適度の訓練を必要とするのではなかろうか。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は自分の結論に痛々しく感激して劇しく胸をかきむしつてゐたが、突然身をひるがへして演壇を落下すると、ハラ/\と涕泣ていきゅうして椅子に崩れた。
村のひと騒ぎ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
麾下きか数万の軍勢を見渡しながら、百年後にはこの中の一人も生残っていないであろうことを考えて涕泣ていきゅうしたというペルシャの王様のように、この少年は、今や
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼は肱掛ひじか椅子いすに倒れかかり、両手で顔をおおうた。声は聞こえなかったが、肩の震えを見れば、泣いてるのが明らかだった。沈黙の涕泣ていきゅう、痛烈な涕泣だった。
東大寺の大仏修理をした宋人陳和卿ちんなけいが来た。実朝に謁して前生は宋の育王山いくおうざんの長老だといって涕泣ていきゅうした。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
その葬式に臨んで、不図ふと師は涕泣ていきゅうした。傍人はこれを怪しんで、「世捨人にも亦これあるか」と云う。
釈宗演師を語る (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
何故? いままでも左膳はよく深夜に刀の泣き声らしいものをきいたことがあるが、それはいつもきまって若い女のすすりなきだったけれど、今夜のはたしかに老婆の涕泣ていきゅうだからだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
講師の寂照が如法に文をじゅし経を読む頃には、感動に堪えかねて涕泣ていきゅうせざる者無く、此日出家する者も甚だ多く、婦女に至っては車より髪を切って講師に与うる者も出来たということである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかその才をあわれみて獄につなぎ、ふうするに管仲かんちゅう魏徴ぎちょうの事をもってす。帝のこころ、敬を用いんとするなり。敬たゞ涕泣ていきゅうしてかず。帝なお殺すに忍びず。道衍どうえんもうす、とらを養うはうれいのこすのみと。帝の意ついに決す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)