ほこら)” の例文
そしてこの黄色い顔に、ほこらのような眼をした陰気な老人は、突かれては転びながら、次第に岩城いわしろさして近づいてくるのである。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「おわさないでなんとしょう。了海様は、このほこらの主も同様な方じゃ。はははは」と、石工は心なげに笑った。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そいつを盗み出してやろうとの目算からだったが、植甚のおやじ、うまい所へ隠したものよ、滝のかかっている岩組の背後うしろほこらにこしらえ、そこへ隠して置くんだからなア。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
家の中ががらんとほこらのやうに、しーんとして真暗だ。をかしいなと思ひ、おひつの蓋を取つて見ると、中は空つぽだつた。鍋の中をのぞくと、水ばかりじやぶじやぶしてゐる。
聴雨 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
思わずその跡をつけて、遥々はるばる船越ふなこし村の方へ行く崎のほこらあるところまで追い行き、名を呼びたるに、振り返りてにこと笑いたり。男はとみればこれも同じ里の者にて海嘯の難に死せし者なり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ほこらのような船内に、こえは、がーんと、ひびきわたる。
幽霊船の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)