泥鼈すっぽん)” の例文
日本橋の茅場町に錦とかいう鰻屋があるそうで、そこの家では鰻や泥鱒どじょうのほかに泥鼈すっぽんの料理も食わせるので、なかなか繁昌するということです。
魚妖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
新聞記者などが大臣をそしるを見て「いくら新聞屋が法螺ほら吹いたとて、大臣は親任官しんにんかん、新聞屋は素寒貧すかんぴん、月と泥鼈すっぽんほどの違ひだ」などとののしり申候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
新聞にかかれるのと、泥鼈すっぽんに食いつかれるとが似たり寄ったりだとは今日こんにちただ今狸の説明によって始めて承知つかまつった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とか『音羽おとわ屋(その頃は三代目菊五郎だったが)の三浦之介とはお月様と泥鼈すっぽんだ。第一顔の作り方一つ知らねえ』
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
泥鼈すっぽんを抱いていそうな、しずくの垂る、雨蓑を深く着た、蓑だといって、すぐに笠とは限らない、古帽子だか手拭だか煤けですっぱりと頭を包んだから目鼻も分らず
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
泥鼈すっぽんぎらいな鏡花氏に、泥鼈の料理を食べさせた話に、誰も彼も罪なく笑わせられた。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
わずかに廊下から明りを取った並居る人顔も、おぼろかすめて殆ど見分けのつかない真中処へ、トタンに首のない泥鼈すっぽんの泳ぐが如く、不気味に浮上ったのは大坊主頭であった。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その頃、河をさらう人夫らが岸に近いところに寝宿ねとまりしていると、橋の下でくような声が毎晩きこえるので、不審に思って大勢おおぜいがうかがうと、それは大きい泥鼈すっぽんであった。